次世代都市国際連携研究機構は、これまで都市社会が内包し、COVID-19によって全世界規模で顕著となった分断や格差の課題解決を通して、次世代の「インクルーシブ都市」の実現を目指し、工学系研究科を中心に、人文社会系研究科・経済学研究科・新領域創成科学研究科・情報理工学系研究科・地震研究所・生産技術研究所を加えた7部局のメンバーによる文理融合の体制を構築し、新たな知の体系化に挑戦します。

「インクルーシブ都市」のビジョンを描くためには、人口集積によってもたらされる都市のマクロな経済効果だけでなく、地域コミュニティレベルでの都市の社会空間に対する理解が必要不可欠です。パンデミックだけでなく、様々な危機に直面した都市を歴史的に掘り起こし、地域に存在するさまざまな社会的距離と土着的関係の調査に基づいて、自然環境や地域コミュニティの特性に応じたインクルーシブ都市(社会)の実現に必要な社会的距離を抽出する必要があります。

VR/MR技術の活用により、離れていても現地の都市やコミュニティ社会を体感できたり、現地の自治体・企業・コミュニティの人々ともその空間を通してコミュニケーションを図ったりすることが可能となります。感染症対策に必要な物理的距離を確保しながら、情報通信技術等の活用により社会的距離を縮めて、感染症の蔓延や自然災害のもとで顕在化しかねない分断や格差の克服がいかに可能かを考え、都市における社会空間のデザインに活かします。

また、自然災害大国である日本では、レジリエントな都市を実現することが重要であると言われてきました。パンデミック下において、南海トラフ地震や首都直下地震といった巨大地震や大規模風水害が同時に発生する複合災害に対しても、被害を軽減し早期に回復するための、いわゆる事前復興を考える必要があります。

巨大災害において加速するいわゆる「trapped population(閉じ込められた住民)」問題は、都市の貧困層を襲う分断と格差問題の一つです。想定される複合災害に対して、どのような都市構造とし他都市と連携するのが良いか、また非常時の都市のガバナンスのあり方や事前の備えを実装するために地域コミュニティから国レベルの各段階において公正な社会的意思決定のあり方、さらに複合災害に備えるための人材育成について議論が必要でしょう。

パンデミック下の都市でリモート社会を実現するには、社会インフラサービスのデジタルトランスフォーメーション(DX)をさらに加速させる必要があります。地域固有の歴史と伝統に基づく新しい社会空間デザインを内装したレジリエントでインクルーシブな都市を実現し、都市間を連結し、また運営するために、都市の居住と世帯のあり方や緑地を含む都市空間のあり方の議論と同時に、サイバー空間における都市のデジタルツインを用いた社会問題の解決方策が必要不可欠です。インフラ産業のデジタルトランスフォーメーションを展開するとともに、都市設計の契約制度を含めたインフラサービスに関する制度の再構築が必要です。

海外の大学と連携し国際サマーコースを開催することにより、次世代のインクルーシブ都市の国際展開を目指しています。危機を契機とした新たな都市問題の抽出と共有を図るとともに、各都市の課題を自治体、企業や市民とともに解決する協働活動から新たな知を産み出す実践型研究を遂行し、国内外の都市における複雑な現場課題の邂逅により、次世代のインクルーシブ都市のビジョンと実現方策が創造されると期待しています。

上記の趣旨に基づき以下の4つのテーマ・プロジェクトを設定し活動する予定です。

  • WG1:リモート社会研究(都市のリモート化とインフラサービスのDX)
  • WG2:分断と格差の都市社会研究(ディスタンシングのデザイン)
  • WG3:レジリエンス都市研究(複合災害の事前復興と未来ビジョン)
  • WG4:国際都市教育(海外大学とスタジオ型国際サマーコース)

国内外の様々な都市を対象として、企業や地域コミュニティとも連携させて頂きながら、次世代のインクルーシブ都市の実現に向けて貢献できるよう努めていきたいと思います。

2021年4月
次世代都市国際連携研究機構
機構長 小澤一雅