18~19世紀、西欧の各都市では、市民革命から産業革命へと続く社会・産業の大変革により、中世以来の都市構造が温存されたところに大量の人口流入が発生したため、下水や廃棄物の堆積、大気汚染等による深刻な健康被害が頻発するようになった。19世紀半ば以降、西欧の各都市はその抜本的改革に乗り出したが、上下水道網の敷設やグリーンベルトの設置、ガーデンシティ構想等はその代表例と言える。近代的な都市計画の嚆矢と位置づけられるもこれらの施策や構想は、その根底に、公衆衛生改善という恩恵を市民が幅広く享受できることが想定されていた。

しかしガーデンシティは、多様な職種の人々がともに暮らす自律型都市として構想されたが、現実には、単なる緑の多い郊外住宅地との認識が定着し、それが世界に拡散してしまった。グリーンベルトも、肥大化した都市の機能不全の解消という目的の一方で、郊外の田園地帯に邸宅を構える高所得者層の居住環境の保護が、裏の目的ともなっていた。万人にとっての公衆衛生の改善という目的をかかげた近代都市計画が、現実には高所得者層のためのエクスクルーシブな環境の形成につながり、社会的格差を助長することにもなってしまった。

こうした歴史的な事実を、現代の都市に生きる私たちがどう受け止め、多様な人々が様々な立場のなかでともに暮らす、インクルーシブな都市社会の形成につなげていくことができるか。それこそが、危機にさらされるたびに、分断や格差が顕在化し助長されるという経験を重ねてきた歴史の継承者としての、私たちに課せられた使命なのではないか。

当グループでは、工学、経済学、社会学等の多様な分野の参画のもと、分断と格差を超克した都市と地域のあり方を考究することを目的とする。